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2026.07.27
不動産相続事例:「消えた三男」が起こした遺産トラブル 相続人が行方不明の場合は?【司法書士監修】

相続人の1人と10年以上「音信不通」だった事例をもとに解説
親族が亡くなり、実家の相続が発生したとき、まず必要になるのが「相続人の確認」だ。不動産を売却するにも、名義変更をするにも、相続人が複数いる場合は、原則として相続人全員で話し合いを進めなければならない。
しかし、相続人の中に「音信不通」の人がいる場合はどうなるのか?
今回紹介するのは、相続人である兄弟姉妹4人のうち1人と10年も連絡が取れず、実家(持ち家)の相続手続きが止まってしまった福岡県内の事例だ。
エヌプロでは、司法書士と連携しながら状況を整理し、最終的に相続手続きと不動産の整理を完了した。
前編では当社・エヌプロで担当させていただいた、実際の相談内容と解決までの流れをレポート。
後編では司法書士の協力を得て、このトラブルを法律・制度の面から解説する。
前編:相続した実家を兄弟で円満に売却するはずが……

ご遺族3名は、慣れ親しんだ福岡県内のご実家(不動産)を相続し、エヌプロにお電話を下さった(イメージ)
——「何から手をつければよいか、まったくわからない」
最初は、一本の電話から始まった。
相談者様の、ご両親が亡くなった。その実家がご家族に遺された。これから、どうしようか? 相続の手続きも含めて、どこから誰に相談して進めればいいのか、まったく見当がつかないという。
不動産の相続が発生すると、戸籍の確認、相続人の確定、遺産分割協議、不動産の名義変更、売却の検討など、さまざまな手続きが同時に動き出す。
そんなにやることが多いわけだから、「わからない」。しごく当たり前の話だ。
「まず、状況を整理しましょう」。そうお答えして打ち合わせを組んだ。実は、エヌプロに声がかかる相談のなかでは、特に珍しいものではない。
しかし、このケースは状況が特殊だった。
相続人は4人。しかし、1人とは10年以上連絡が取れていなかった
今回の相続人は、被相続人の兄弟姉妹にあたる4人であることが分かった。
ところが。
そのうちの1人と、連絡が取れていないという。
「三男と、10年も会っていないんですよ」
いまの住所や連絡先が分からない。その事実が明らかになった瞬間、なにか嫌な予感がした。
相続したのが実家(持ち家)だった場合、そこに住み続けるか、あるいは手放すことを検討するご家族もいるだろう。慣れ親しんだ家でもあるが、不動産だから家族で平等に分けて使うこともできない。家屋の解体をエヌプロで行う場合もある。すると形見の品の中から思わぬ価値のあるお宝が見つかり、遺品買取で財産が増えることもある。
今回は「実家の解体と不動産売却」のご意向だった。そのためにはまず、相続人全員で、誰がどのように売却後の財産を受け取るかを決めなければならない。
しかし、連絡が取れない相続人が1人でもいれば、その協議は成立しない。
「三男以外の兄弟の意見はそろっているんですよ。連絡がとれる兄弟間で進めてもいいものでしょうか?」
相談者様が、そう思いたくなる気持ちはよく理解できる——だが、それは法律上、認められていない。連絡が取れない相続人を除外したまま、持ち家の名義変更や売却を進めることはできないのだ。
動き出した初手で、相続はストップした。
相続STOP 三男はどこにいるのか?
エヌプロでは、実家の整理・売却に向けた不動産側の対応を進めながら、同時に提携する司法書士の協力を得て、相続手続き面の準備を開始した。
法的な整理だけ進めても、不動産の買い手が見つからなければ問題は解決しない。 固定資産税も維持費もかかり続けるため、両方を同時に動かさなければ、前には進めない。それが今回のケースだった。
「見つからないんですよね……どこにいるのかなあ」
相談者様は、そう言って困りはてている。別に喧嘩して絶縁したわけでもない。ただ兄弟が別の場所で暮らしているうちに、連絡がとれなくなったのだ。
司法書士と繰り返し打ち合わせを重ね、戸籍や住民票などをたどる調査に乗り出した——しかし、所在はつかめなかった。
空気が、一気に重くなった。極論「生きているかどうかもわからない」ということだ。
「失踪宣告」そして不動産売却へ

家族そろって暮らしていた、数十年前(イメージ)
司法書士の判断は「家庭裁判所への失踪宣告の申し立て」だった。簡単な手続きではない。必要な資料をそろえ、家庭裁判所に申し立て、審判が出るまで時間もかかる。
それでも、このまま動かなければ、相続手続きも不動産の整理も、ずっと止まったままだ。
相続をめぐって一気に揺れた、遺族の状況。
大きな決断だったが、「前に進めるための手続き」として、申し立てに踏み切った。
—— 申し立てから、約8ヶ月。家庭裁判所の審判が確定した。
7年間以上所在がわからない「普通失踪」の認定である。
止まっていた相続手続きが、ようやく動き出した。三男以外の相続人の間で遺産分割協議を整え、実家の整理・売却に向けた手続きも進んだ。
「どうしたらいいかわからない」。最初の相談から、ここまで来るのにかかった時間と労力は、決して小さなものではなかった。しかし、もし動かずにいたなら。連絡が取れないという現実を前に、手続きを放置し続けていたなら。
相続はいつまでも動かず、実家の家屋は誰にも使われずに、土地は次の住み手に渡ることもなかったはずだ。
いまも、三男はみつかっていない。
後編:「相続人が行方不明」の場合に知っておきたい法律と制度
前編の事例を踏まえ、ここからは法的・制度的な観点から整理します。なぜ相続人の1人と連絡が取れないだけで不動産相続が止まるのか。そのような場合に、どのような手続きを検討するのか。順を追って説明します。
制度解説・監修:藤本一英(FNG司法書士事務所)

司法書士・行政書士・宅地建物取引士・ファイナンシャル・プランナー。不動産登記、相続・遺言に関する手続きを中心に幅広く業務を行う。
なぜ1人でも欠けると止まる? 「遺産分割協議」の仕組み

相続が発生し、遺言書などによる財産の分け方が決まっていない場合、相続人は全員で「誰が、どの財産を、どのように取得するか」を話し合う必要があります。これが遺産分割協議です。
法務省は遺産分割を「法律で決められた相続人が全員参加して、相続財産の分け方を決定する手続」と説明しています(出典:法務省「不動産を相続した方へ」)。一部の相続人だけで決めることは、認められていません。
実家(持ち家)のような不動産は、現金と異なり物理的に分割することができません。そのため、たとえば以下のような選択肢を相続人全員で決める必要があります。
- 誰か1人が不動産を相続する
- 売却して代金を相続人で分ける
- 共有名義にする
- 代償金を支払って特定の相続人が取得する
どの方法を選ぶにしても、相続人全員の関与が前提になります。
遺産分割協議書には全員の押印が必要になる
協議の内容がまとまったら、通常は遺産分割協議書を作成します。不動産の相続登記を行う際には、この協議書が必要書類の一つとなります。協議書には、相続人全員の実印の押印と印鑑証明書の添付が必要になる場面があります。
つまり、連絡が取れない相続人がいると、「話し合いができない」だけでは済みません。その人に内容を確認することも、押印を求めることも、必要書類を用意してもらうこともできません。結果として、協議書を完成させられず、不動産の名義変更や売却に進めない状態になります。
不動産を売却するには相続登記が必要になる
相続した不動産を売却する場合、原則として被相続人の名義から相続人の名義へ変更する手続き、すなわち相続登記が必要になります。
相続登記は2024年4月1日から義務化されています。法務省のQ&Aでは、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があり、遺産分割で不動産を取得した場合も、遺産分割から3年以内に登記が必要とされています(出典:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。
不動産売却までの流れは次のとおりです。
- 相続人を確定する
- 遺産分割協議を行う
- その内容に基づいて相続登記を行う
- そのうえで売却手続きに進む
遺産分割協議が整わなければ、相続登記もできず、売却にも進めません。連絡が取れない相続人が1人いるだけで、この流れのすべてが止まってしまうのです。
兄弟姉妹が相続人になるケースは、戸籍調査が複雑になりやすい

前編の事例では、相続人は被相続人の兄弟姉妹でした。
兄弟姉妹が相続人になるケースでは、被相続人本人の戸籍だけでなく、父母の戸籍、兄弟姉妹の戸籍などをたどりながら相続人を確定する必要があります。配偶者や子どもが相続人になるケースに比べ、調査の範囲が広くなりやすい傾向があります。
また、兄弟姉妹の中にすでに亡くなっている人がいれば、その子ども(被相続人にとっての甥・姪)が相続関係に関わることもあります。最初は「相続人は4人」と把握していても、戸籍調査を進める中でさらに関係者が増えるケースも少なくありません。
連絡が取れない相続人がいる場合、まず行う「所在調査」
相続人と連絡が取れないとわかっても、すぐに法的手続きへ進むわけではありません。最初に確認するのは、その相続人の現在の所在、生存の有無、連絡が取れる可能性があるかどうかの調査「所在調査」です。
具体的には、戸籍謄本・戸籍の附票・住民票などを確認し、現在の住所や過去の住所をたどります。住所が判明すれば、書面を送る、専門家を通じて連絡を取るなどの方法で、協議への参加を求めることになります。
ここで重要な区別があります。「連絡を取っていない」と「連絡が取れない」は異なります。長年疎遠であっても、住所が分かり本人と連絡できる状況であれば、通常は本人に協議へ参加してもらう必要があります。
所在調査を尽くしても住所も生死も確認できない場合に初めて、家庭裁判所の手続きを検討する段階に進みます。
「不在者財産管理人」とは
相続人の所在が判明しない場合に検討される制度の一つが、不在者財産管理人です。
不在者財産管理人とは、従来の住所や居所を去り、容易に戻る見込みのない人に財産管理人がいない場合に、家庭裁判所の手続きによって選任される人のことです。不在者財産管理人が不在者に代わって遺産分割協議をしたり財産を処分したりするなど、法律で定められた権限を越える行為を行うには、家庭裁判所の許可が必要とされています(出典:裁判所「不在者財産管理人の権限外行為許可」)。
注意すべきは、不在者財産管理人は「行方不明の相続人の代わりに何でも自由に同意できる人」ではないという点です。その本来の役割は、不在者本人の財産を守ることにあります。他の相続人の意向だけを優先した内容の遺産分割協議を進めることは、できません。
不在者財産管理人が検討されるケースとしては、たとえば次のような状況があります。
- 相続人の住所が分からない
- 長年連絡は取れていないが、生死不明が7年以上続いているとまでは確認できない
- 戸籍や附票をたどっても連絡がつかない
- 本人に代わって財産管理や遺産分割協議に参加する人が必要
「失踪宣告」とは何か
もう一つの制度が、今回の事例で選択された「失踪宣告」です。
失踪宣告とは、生死不明の人について、家庭裁判所の手続きにより法律上死亡したものとみなす制度です。裁判所では、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない人について、生死が7年間明らかでない場合を「普通失踪」とし、家庭裁判所が申し立てにより失踪宣告をすることができると説明しています。また、戦争・船舶の沈没・震災などの危難に遭い、その危難が去った後1年間生死が明らかでない場合は「危難失踪」とされています(出典:裁判所「失踪宣告」)。
失踪宣告が認められるまでには、今回の事例では8ヶ月を要しましたが、ケースによっては1年程度かかることもあります。認定されるとその人は法律上死亡したものとみなされます。これにより、相続関係を整理し、止まっていた遺産分割協議や不動産の整理を進められる場合があります。
申し立てには、不在者の戸籍謄本・戸籍附票・失踪を証する資料・申立人の利害関係を証する資料などが必要とされています(出典:裁判所「失踪宣告」)。
なお、失踪宣告は、連絡が取れない相続人を「相続手続きから外す」ための便宜的な制度ではありません。生死不明の状態が一定期間続いている場合に、法律関係を整理するために認められた家庭裁判所の制度です。
不在者財産管理人と失踪宣告の違いと選択の基準

どちらの制度を選ぶべきかは、「連絡が取れない」という事実だけでは判断できません。状況に応じて適切な手続きが異なるため、以下の点を確認したうえで専門家とともに判断することが重要です。
- 最後に連絡が取れた時期
- 戸籍や附票で確認できる住所の状況
- 親族・関係者との連絡状況
- 生存をうかがわせる事情があるか
- 生死不明の期間
- 不動産売却など、急いで整理すべき事情があるか
両制度の違いを整理すると、次のとおりです。
不在者財産管理人は、本人が法律上死亡したものとみなされるわけではなく、財産を管理する人を家庭裁判所が選任する制度です。「所在は不明だが、死亡したとみなすほどの事情まではない」ケースで検討されます。
失踪宣告は、一定期間生死が明らかでない人について、法律上死亡したものとみなす制度です。相続関係そのものに影響し、「普通失踪では生死不明が7年以上」であることが要件となります。
判断を誤ると、申し立てのやり直しや手続きの長期化につながる可能性があります。
連絡が取れない相続人が、すでに亡くなっていた場合
所在調査の結果、連絡が取れない相続人がすでに亡くなっていることが判明する場合もあります。
その場合、その人を除いて手続きを進めることはできません。亡くなっていた相続人に子どもがいれば、その子どもが相続関係に関わる可能性があります(代襲相続)。
兄弟姉妹が相続人になるケースでは、こうした事情により相続人の人数がさらに増えることもあります。戸籍調査を丁寧に行い、相続人の確定を確実に進めることが、その後の手続き全体の前提になります。
相続人申告登記と通常の相続登記は別物
2024年4月からの相続登記義務化に伴い、「相続人申告登記」という制度についての問い合わせも増えています。
相続人申告登記は、期限内に相続登記の申請が難しい場合に、簡易に相続登記の申請義務を履行するための仕組みです。法務省は、相続人申告登記について、不動産の権利関係を公示するものではなく、相続した不動産を売却したり抵当権を設定したりする場合には、別途、相続登記の申請が必要と説明しています(出典:法務省「相続人申告登記について」)。
つまり、相続人申告登記は義務違反を避けるための応急的な手段であり、実家の売却を目的とする場合には適用できません。連絡が取れない相続人がいる場合、相続人申告登記だけで問題が解消されるわけではない点に注意が必要です。
法的手続きと不動産の出口を、同時に考える

連絡が取れない相続人がいる場合、必要な対応は法的手続きだけではありません。
相続人調査、遺産分割協議の整備、不在者財産管理人または失踪宣告の申し立て、相続登記という法的な整理が一方にあります。その一方で、「実家をどうするか」という不動産としての出口も、同時に考えておく必要があります。
売却するのか、誰かが住むのか、共有にするのか、管理を続けるのか。出口が決まっていなければ、登記が完了しても固定資産税や管理の負担は残り続けます。逆に、売却先が見えていても、遺産分割協議が整っていなければ売却には進めません。
法的手続きと不動産の出口は、別々に考えるものではなく、同時に進めるものです。
行方不明・音信不通の相続人がいる場合は、早めに専門家へ相談を
相続人と連絡が取れない問題は、時間が経てば解決するものではありません。むしろ、時間が経つことで別の相続が発生したり、関係者が増えたり、必要な資料の収集が難しくなったりすることがあります。
すべてのケースで失踪宣告が適切な手段になるわけではありません。不在者財産管理人が適切な場合もあれば、まず所在調査を尽くすべき場合もあります。連絡が取れないことが分かった段階で、司法書士などの専門家に相談することが、最初に取るべき行動です。
エヌプロでは、相続不動産の整理・売却だけでなく、司法書士などの専門家と連携しながら、複雑な相続手続きにも対応しています。
「相続人の1人と連絡が取れない」
「実家の相続手続きが進まない」
「不動産を売却したいが、何から始めればよいか分からない」
このような場合は、まず状況整理からご相談ください。
株式会社エヌプロでは、福岡県内を中心に建造物解体、産業物収集運搬、工事請負の業務を行っており、多種多様な現場に対応できる専門スタッフにて迅速に対応致します。
ご相談・ご依頼など、お気軽にお問い合わせください。お見積りも承ります。
